婚恋

神様の悪戯?

「お世話になります。花夢衣(かむい)の内田です」
ブライダルの打ち合わせの為、私は何冊かのファイルを持参し
結婚式場であるフェリシェールに来ていた。
受付の女性が挨拶するとすぐに藤田さんを呼んでくれた。

「春ちゃん!忙しいのにごめんね~~。」
両手を合わせて謝る藤田さんに笑顔で返す。
ブライダルの仕事は大変だけどやりがいがあるから好きだ。
「全然いいですよ。少しでも稼がないと・・なんで」
藤田さんは少しホッとした様だった。
「もう・・・そろそろ見える頃なんだけど・・・とりあえず部屋に行こうか」
打ち合わせスペースへと案内され
イスに座り、バッグの中の資料を出して準備を進める。
すると部屋の電話が鳴った。
どうやらお客さまが来たようだ。
藤田さんはちょっと待っててと言い部屋を出て行った。

しばらくするとドアが開き私は勢いよく立ちあがった。
そしてドアの方に身体を向けてお客様に向って挨拶をしようと
笑顔を作ったが、その顔は一瞬で氷の様に固まった。

嘘でしょ・・・

そこにいたのは陸と百恵さんだった。
凍りついた体は動きも声も忘れて直立不動となった。

心の中で
私何か悪い事でもした?誰かに迷惑かけた?
なんでこんな・・あまりにも酷過ぎる。
いろんな思いがぐるぐると飛び交う。

「・・・ちゃん・・・春ちゃん?」
藤田さんに何度か名前を呼ばれて何とか正気に戻れた。
「あ・・あっ・・ご・・ごめんなさい」
藤田さんの顔を見るだけで精一杯だった。
2人と視線をあわせないように挨拶をした。
「今回、ブーケなどを担当させていただきます。内田と申します。
 よろしくお願いいたします。」
思い切り頭を下げた。
陸は一体どんな顔をしているのだろう。
驚いてる?それとも・・・知っていた?
震えそうな手を何とか気力で動かし、今まで作ったブーケやブートニアの
アルバムを用意する。
「あれ・・・・もしかして・・・陸君と同じバンドの春姫さん?」
アルバムを持つ手が止まる。

視線を合わせず、俯き加減でハイと強張った顔で笑顔を作った。
「ええええ!じゃあ・・前に藤田さんから見せてもらったブーケや式場のアレンジは
 春姫さんが作ったものなんですか?」
只ならぬ空気を感じ取った藤田さんがフォローに入った。
「そうなんですよ。彼女は私の一押しフローリストなんですけど・・・そろそろ
本題に移ってもよろしいでしょうか?」
興奮気味の百恵を軽くたしなめ打ち合わせに入った。
アルバムの中から大まかなイメージの物をいくつか選んでもらう。
ドレスとのバランスもあるのでその辺を踏まえて
選び、好きな花はあるかどうかなど細かい事を打ち合わせした。
その間私は一度も2人の顔を見ることはなかった。
いや、見れなかったのだ。
もし見てしまったらどうなるか自分でも予測できなかったから・・・
正直、よくここまでやれたと感心するほどだった。
結局私は一度も陸と会話も視線を合わすことなく打ち合わせをしたのだった。

「春ちゃん・・・」
2人を見送りに行った藤田さんが戻って来た。
私はうつろな目で資料を片付けていた。
「ねぇ・・・さっきの2人とは知り合いだったの?」
「・・・ハハハ・・彼の事好きだったみたいだったんだけど気付いたのが
 遅すぎたようで・・・招待状が来て自分の気持ちに気付いたんですよ。
何だかどうしようもないバカですよね・・・しかも担当になるとか・・・」
「春ちゃん」
「もう~~。そんな泣きそうな顔しないでください。」
「だって・・・」
「大丈夫です。仕事だからその辺はちゃんと割り切って・・・・」
・・・本当に割り切れるかな・・・
自分に言い聞かせてるだけなのかな・・・自分でもよくわからない。

「ああ~!よし!春ちゃん!今日は飲みに行くよ!」
「え?・・で・・でも・・・お子さんは・・・」
「旦那が見てくれるから大丈夫。今は春ちゃんの方が大事。私の
大事な妹みたいなもんだから・・・ね」

私は溢れ出そうな涙をぐっと堪え頷いた。
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