婚恋
私が花嫁?!

電話

久しぶりにバンド練習があった。
もちろんそれは結婚式の余興のためなんだけど

藤堂君がとんでもない事を言いだした。
「ねぇ・・こんな時くらいしかできないことやらねぇ?」
「どんな事やんだよ」
相変わらず陸は面倒くさそうな顔で藤堂君をちらっとみると
視線をギターに戻しチューニングをしていた。
藤堂君は私の方を見るとニヤニヤしながら近づいて私の肩を
がしっと寄せてきて
「今回は特別バージョンで・・・うちの姫に歌ってもらうんだよ!」
『ええええ!』
私と陸は声をあげて驚いた。
こういう時に限ってなぜか息が合う。
皮肉だよな・・・

「それ・・ありだよね。春姫って実は歌うまいんだよ。ね?は・る・ひ」
3人のやり取りを黙って見ていた松田君が
とどめを刺してきた。
だが松田君の言葉に飛び付いたのがまさかの陸だった。
「え?なんでお前知ってんの?歌聞いたことあるの?」
「あるから言ってるじゃん・・・てか陸聴いたことないの?春姫の歌」
「・・・・・」
あれ?なんで悔しがってるの?
松田君は口角を上げ
「お前より俺の方が春姫のとこよくわかってるんでね。」
挑発とも取れる言い方に一瞬陸の顔が歪んだ。
結局私は陸の結婚式の時に歌を歌うはめになった。
貧乏くじ引きすぎ・・・・

歌は皮肉にも陸が作ったラブソングに決定。
ベース弾きながら歌うことに慣れていないから
ついつい下を向いてしまう。
その度に陸や松田君に「下!」って言われるし・・・

大体このラブソングを何で私が歌うのよ。
まるで私が誰かのために歌っているみたいじゃないの

陸へ?

勘弁してよ・・・・

複雑な思いで私はスタジオや家で練習していた。


そんなある日
店で花の水やりをしていると
ポケットの中のスマホがブルブルと揺れた。
仕事の手を止めてスマホを取りだすと
陸からだった。
「春姫!」
「もしもし・・・?」
時計はまだ9時半。
ブーケの事かと思ったが何だか様子が違う。
「どうしたの?こんな時間に電話だなんて・・・ブーケの事?
だったら藤田さんを通し・・・・」
「今時間あるか?」
私の話しが終わる前にいきなり時間あるか・・・に只ならぬ
空気を感じた。
「・・・・何かあったの?」
「・・・お前の店の近くのカフェに来てくれないか?」
「そんな急に言われても・・・」
ちらりと母の方を見ると
いいよと言ってくれた。
「わかった。じゃあ・・・待ってる」
「ごめん。」
電話を切ると母が興味津々の顔で近寄って来た。
「今の誰?なんかあったの?」
「陸から・・・なんか話があるって・・・・」
「陸君が?!」
「ちょっといつもと違うから何かあったのかな~~って」
母は何だかニヤニヤしながら私を見ると
「早く行ったら?あんたにしか頼めない事かもよ。」
母の言い方になんか引っかかりを感じたが
とりあえずエプロンを外し
「なるべく早く帰ってくるから!」といって
店を出た。

母が私の姿をみてニヤッと笑ってるなんて知らずに・・・・
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