婚恋

キスへの思いは複雑です

「ちょ・・ちょっといきなりなにするの?」
奥さん役ってだけでこんなにもムードのかけらもないキスをされるものかと
思うと内心がっかりだった。
だが陸は表情一つ変えず
「これから結婚するって2人がこんなリアクションだと
嘘がバレバレじゃねぇか。そんなんじゃ~~困るよ奥さん」
まるでこの状況を楽しんでいる様だった。
たしかにキスの度にこんなリアクションじゃあ
バレバレだけど
私にも気持ちってものがある。
大体、陸は1週間を乗り切ればいいとしか思っちゃいない・・・

完全に相手を思う気持ちに温度差あり!
だがここは指摘できない。
指摘しちゃったら私の気持ちがばれちゃうからだ。
しかも奥さんとか言われて内心うれしかったりする。
私の気持ち顔に出てない?大丈夫?
確かめるすべもなく
わざと口を尖らせた。
「わかってます。そのくらいの演技、やってやろうじゃん!」
陸の口角が上がる。
え?もしかして言い方間違えた?
めっちゃ上から目線だった?
本当はそんな余裕ないけど・・・・

陸は私の顎に手を当てると
「そんなに余裕ならもう一度やってもらおうか?一応俺達
教会での結婚式だろ?みんなのいる前でキスするんだから
俺の事大好きって演技しながらキスしろよ」
「ええええ?」
「ええ?じゃないだろ?自分の言葉には責任を持って・・・ほら」
陸の顎を持つ手に少しだけ力が入り
陸の顔が接近してくる。

私・・・今の本当の気持ちを出していいんだよね。
それが陸のリクエストだから
私はそっと目を閉じ陸のキスを受け入れた。
3回目のキスは今までにはないほど優しく甘いものだった。
「んっ・・・ん・・」
キスってこんなにいいものだっけ?
大好きな人にされるから気持ちがいいの?
時々角度を変え、わざとリップ音を出す陸に
私は自分の置かれている立場を完全に忘れていた。

陸の事が好きな一人の女としてキスを受け入れていた。
唇が離れると陸がさらに口角を上げ
「お前・・・めっちゃエロい顔すんのな」
「え?」
「・・・ってそれがお前の演技・・なんだろうけど
 俺の事が好きだってのが伝わる様なキスで辞められなかった。
さすが言っただけの事はあるな」
そういうと陸は立ちあがった。
「明日打ち合わせ頼むな。9時には迎えに来るからよろしく」

「・・・・うん」
それだけ言うと
陸は部屋から出て行った。

陸への思いを込めたキスは単なる演技としてしか思われなかった。
気付けは目にはうっすらと涙がたまっていた。

まさか扉の向こうで陸が顔を真っ赤にして動けずにいた事など
知らずに
< 25 / 67 >

この作品をシェア

pagetop