レンアイ不適応者
フテキオウ
 翌日目を覚ますと、思いの外体がだるくて心底驚いた。心と体は繋がっていると何度も耳にしていたが、実際自分の心と体をもってして実感することになるとは思いもしなかった。そのくらいには落ち込んでいるのだと知れば、この程度のことで落ち込んでいる自分に嫌気がさす。この程度、とも思えなかったのか、と。今の杏梨は確実に昨日の出来事については不適応者だ。比較的人生の中で何かに対して不適応になることもなく生きてきた杏梨にとって、どんな形にせよ不適応者に自分がカウントされることは受け入れにくい。適応力の高さこそが自分のアイデンティティの一部を形成していたからだ。

「あ、リプライ。」

 携帯電話の上部にあるライトが点滅している。リプライは高校からの友人からだった。杏梨の心の許せる数少ない友人の一人からである。リプライの内容はこうである。

『ねぇねぇー肉食べたい。夕方とか暇?今日は学校行ってない?』

 ここで『大丈夫なの?』とこないところが我が友人らしいとつくづく思う。大丈夫と問われても大丈夫なはずもないことはお互いにわかっているからこそ言わない。ただ、文面が必ずしも文面通りの意味しかもたないわけでもない。

『しゃぶしゃぶなんてどうよ。○○駅6時はいかが?』
『おっけー!じゃああとでねー』

 意訳するとこうなる。
『愚痴はまかせろ。美味しいものでも食べながらがっつり聞いてやる。』

 杏梨は携帯電話を見つめてにっこりと笑った。約束の時間までにやることは、平日で終わらなかった仕事を片付けること、そしてもう少し体に休息を与えること。

(12時過ぎに帰ってきたのに6時には一度目が覚めるなんて、体内時計の正確さに驚くし、呆れる。)
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