サンタX
井上は正美より三つ年下の後輩だ。

いや、最近正美が主任になったために、部下と言うべきか。

アイドル染みた可愛い顔立ちに、人懐っこい素直な性格。

子犬のように先輩先輩と慕ってくれて、細やかな遣いにドキドキしたとして、誰が正美を責められようか。

そこで正美ははっとした。

今日はクリスマスイブだ。

え?
うそ。
これってひょっとしてひょっとする?

途端に加速する鼓動を押さえて伺うように井上を見上げる。

「えっと……井上は今晩どんな予定?」

質問の唐突さ故か井上はちょっと驚いたような顔をしたが、徐にはにかむみたいな少し照れたみたいな…でも幸せ全開の無邪気な笑みに顔を崩した。

否が応にも期待が高まる。
鼓動も高まる。
ついでに体温も。

「我が城で、我儘姫のお相手っすよー。」

…ですよね。

屈託ない井上の返事に正美の口からは、ははっ…と乾いた笑みが漏れた。

若いくせにこのヤロウは大学卒業と同時に結婚しており、既に一児のパパなのだ。

結婚している事も知らず有頂天にトキメイテいた出合い頭の時間を返して欲しい。

今更分かっていて、ひょっとして?なんて思った自分、バカ。

いやいや、倦怠期で魔がさしてって事だってあるじゃない?

…今の井上を見てそんな妄想、欠片も残らないけど……。

「一応プレゼントは用意してあるんですけどねー。本当にアレで喜んでくれるかなぁ。あー今更不安になってきたー。先輩どー思います?」

「……知らん。」

一言、お節介な事を言わせてもらうなら…

アンタ、親バカも結構だけどちょっとは嫁さんにも媚びときなさいよね。
定年離婚突きつけられても知らないわよ。

というセリフに尽きる。

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