揺れる恋 めぐる愛
私は化粧室に行こう立ち上がると、ポケットの中で携帯が震えた。

その震えを感じながら、そのまま廊下を進んで歩いていく。


「藤木さん?」

私は途中で後ろから呼びとめられ、つい身構える。

振り向くとそこには……

宮原さんが走ってきていた。

宮原さんはゆっくりと私に近づいてきて、

「よかったぁ~。間に合った」

と少し距離を置いて立ち止まった。

「これ、忘れものじゃありませんか?」

宮原さんの手の中には、見覚えのあるキーケース。


「あっ」

私は鞄の中を探って自分の物を探すが……

案の定見つからなかった。

「わざわざありがとうございます」

手を差し出して、そのキーケースを受け取る。

私の手にキーケースが戻る瞬間、宮原さんの手に触れる。


一瞬躊躇したが……

もちろん何も起こるわけがなかった。


「帰りはお一人ですか?よかったら駅まで

ご一緒してもいいですか?」

「ご心配ありがとうございます。

でも帰りに寄るところもあるので……

一人でも大丈夫です」

「そうですか。じゃ、気を付けて。

また、お休み明けに……」

宮原さんは丁寧にお辞儀をしてから右手を挙げ、その場から踵を返す。

「お疲れ様です」

私は宮原さんに頭を下げ、再び化粧室に向かった。
< 30 / 110 >

この作品をシェア

pagetop