揺れる恋 めぐる愛
私も主任に従って手を合わせ、お弁当に箸を付ける。

食べながら主任は静かに話し始めた。

「母親はもう……

いない。これは子供の頃、教わったものだ。

その人は今時男も家事を、料理をして自立しなさいという考えの人だった…」

「そうなんですね」

「料理男子という言葉ももてはやされているが、

俺がしたら違和感があるだろ?」

「そんなこと……

思わず誰が?なんて言ってすみません。

まさか、こんなことができるなんて……」

「まあ、思わないよな?俺もすごく久しぶりに作ったんだ。

食えるといいが……」

話しながら箸を口元に運ぶ。

「美味しいですよ。こんなに上手だと、私の料理なんて

子供のお遊びみたいな気がします」

「お前もするのか?」

「はい。自分の毎日食べる簡単なものくらいは。

こんなにきちんとはできませんが……」

「いや、一人で毎日作っているなんてすごいな。

俺はそこまでは無理だ」

「毎日と言っても、無理だと思ったら思い切って買って帰ったりします。

なんでも完ぺきにこなすほど器用じゃないので……」

それからしばらくは黙って目の前のお弁当を食べた。


「昨日、紅葉のニュースを聞いて……

そのままいてもたってもいられず、買いだしに行った。

弁当作ってお前と紅葉をみたらどうだろうと思ってな……」
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