jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
「蕾が心奪われるように、わたしが仕組んでいることなんだから、わたしが全部悪いんだ。蕾は思うがままに行動するがいいさ。香に対しても、わたしに対しても。いいじゃないか、香もわたしも蕾を美しいと思っている、身も心も。だから、わたしたちは悪になれるんだ。そして、染め上げたくなる。自分色にね。だけど、最終的に染め上げられるのは、わたしたち悪魔さ。それが何色かは知らないけどさ」
わたしが理解に苦しんでいると、昨日式場にいた山名さんが入ってきた。
「おはようございます。蕾様、千砂兎様。仲睦まじきところ、大変恐縮ではございますが・・・・・・香殿が、相当混乱されておられます。戻られた方がよろしいかと・・・・・・」
今の彼は、弁護士ではなく、時代劇の武士のような立ち振る舞いだった。
「あいつがまともにいられるわけがない。蕾しか愛せないあいつは・・・・・・取り乱した香を1度見てみたかったんだ」
悪戯な笑みを浮かべた千砂兎さん・・・・・・もしかすると、香さんより格上の悪魔かもしれない。
「さて、香が美味しいうちに、戻るとするか!」
「は、はい・・・・・・」
夫が弄ばれているというのに、そう返事するしかできなかったわたしは、どこか情けない感じもした。

ドレスに着替えたわたしが玄関で待っていると、千砂兎さんは何かを手渡してきた。
「早起きして、製作していた。材料や道具は、奥の部屋に完備されているんだ。また、ゆっくり見に来るといい」
それは、ガラス玉でできた、青いネックレスだった。
中心部の玉だけ大きくなっていて、中には桃色の薔薇のガラス細工が嵌められていた。
まるで、海の中に薔薇が存在するかのようだった。
「きれ~い・・・・・・」
わたしが魅入っている間に、昨日と同じようにお姫様抱っこされてしまった。
「さて、行こう!」
ベンツは、滑翔する龍のごとく、jack of all tradesのある街へと向かっていった。

< 126 / 159 >

この作品をシェア

pagetop