jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
見事に成功を収めた2つのオムライスを、誇らしげにテーブルの上に並べた。
猫舌の香さんは、ケチャップでハートを描いた冷めたオムライス、わたしは、ケチャップたっぷりの熱々のオムライスをそれぞれ頬張った。
香さんはお気に召したようで、食べ終えると「ごちそうさま!」とわたしに向かって笑顔で言った。
お決まりの長々とした感想が聞けなくて物足りなかったが、脳内が転換されている今の香さんには、何を言っても無駄なので短い言葉だけを返した。

香さんはパソコン画面に釘付けになっていた。
閃いたイメージをリアルに再現するため、宝探しの真っ最中なのだ。
節約家の香さんは、同じ商品が並んでいると、1円でも安く、送料無料のものを選び抜くので、時間が掛かるのだ。
感嘆とブーイングを繰り返しながら、注文が終わったときには、すでに夕方になっていた。
バイクにやきもちを焼いたわたしは、かなり嫉妬深い性格だということが分かった。
香さんは宝を手に入れたが、わたしが今日得たものはただそれだけだった。


連休が終わった次の日の平日、仕事帰りに、香さんからメールが入った。
『蕾、今日はそのまま来て! 今からすぐだよ!』
(え~! 何でそんなに急なの?)
やることは先に終わらせたい性格のわたしは悩んだが、渋々、いつものパーキングへと車を飛ばすことにした。





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