jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
香さんが言う欲は、性欲のこと?
そう聞きたくなったが、お互いにいけないスイッチが入ってしまうことが予測できたので、ここは賢明にスルーすることにした。
制御不能になってしまった人間は、何をしでかすか分からない。
「ごめんね。よく分からないけど・・・・・・わたしのせいで・・・・・・。お泊りはまだいけないと思うし・・・・・・。そ・・・・・・それでさ、お願い事って? 責任取って協力するよ」
押入れに向いていた香さんの顔が、ゆっくりとわたしの方に向いた。
吊り上った唇に、真夜中の猫を想わさせるような目、それは怖いのか美しいのか、分別がつきにくい顔つきだった。
「あのね、蕾が吸った煙草を僕が吸うんだ。炎は付けないよ。蕾の唇から漏れる熱い愛の火を付けてもらうんだ。吸って離して、吸って離して・・・・・・蕾が繰り返した煙草を僕にちょうだい。蕾が帰ったあと、その火を味わうことにするよ」
わたしは、何も言えなかった。
恥ずかしいのはもちろんだけど、こんなに愛されているんだと思うと、体の奥が熱くなってしまった。
(ずるいよ。香さん・・・・・・)
そう、香さんはわたしの欲望に火を付けようと企んでいる。
煙草のように体に害はないけれど、香さんの言動は毒だと思った。
愛の毒を少しずつ少しずつわたしの心に刷り込んでいく。
すでに、心の表面は彼の色に染まってしまった。
理性という奥の奥の桃色の部分は、いずれ黒に染色されるのだろうか?
それを望むわたしが存在しているのだから、時間の問題だろう。
彼が煙草を止めれても、わたしが香さんを止められない。




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