jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
しかし、先の話を無視して、自己紹介をしてしまった自分が情けなくもなってきた。
だけど、そのおかげで頭が少し冷えてきたようで、並みの会話はできるような気がしてきた。
「さっきの内容に戻りましょう。野乃片さんの言う通り、わたしは、人によく変わっていると言われます。それが話し方なのか行動なのか、そこは自分ではよく分かりません」
天井に向けていた顔をわたしに戻した香さんは、柔和に微笑んだ。
「分からなくていい。分かってしまうと、花咲さんは気を使ってそれを隠そうとするだろう。自信を持って欲しい。というのも、そのままでいてくれないと困るんだ・・・・・・」
「えっ!? どうしてですか!?」
香さんは再び天井に顔を向け、頭をポリポリ掻き始めたと思うと、すぐに真剣な顔つきでわたしを直視してきた。
「一目惚れした」
「え!?」
「一目惚れしたんだ。君に。僕は草食系のはずなんだが・・・・・・。ほっとけないんだ。磨けば輝くものを手に入れたいと思ってしまう僕の性質のせいだ・・・・・・いや、今でも君は輝いている。だけど、その曇った表情の裏に何かが潜んでいるような気がして。それに・・・・・・僕は君の変わったオーラをもう忘れなれない。上手く説明はできないが、好意を抱いてしまった・・・・・・すまない! 僕の勝手な気持ちだ! 嫌なら忘れて欲しい・・・・・・」
当然、嫌だなんて思うはずもなかった。
わたしだけが親愛を抱いていると思っていたのに、即座に気持ちが通い合えるとは夢にも思わなかった。



< 9 / 159 >

この作品をシェア

pagetop