WHITE DROP
WHITE DROP
 白い雪が降るなんて、ロマンチックなクリスマスイヴだ。オフィス帰りのカップルがイルミネーションで有名な通りを抜けたところにある巨大クリスマスツリーの前で待ち合わせをしている。

「ごめん、待たせたね。」
「ううん。」
「ほっぺ、冷たいよ。」
「大丈夫。」

 甘ったるい表情に、甘ったるい台詞。それを向ける方も向けられる方も顔が緩みまくっているのだからタチが悪い。私もそちらの側だったのならば、そんな顔をしていられたのだろうか。しかし、今は賭けの真っ最中である。私だってそちら側になるかもしれない。―――ほとんどその可能性はないのだけれど。

 クリスマスツリーの前に座り、待ち始めてもう1時間になる。頬は感覚がしないほどに冷え切っているし、指先だって思うように動かないから、もし仮に電話が来たとしても上手く出ることができないかもしれない。そんな私の手を、私の彼は先程の彼のように温めてくれるとは思えない。
 だから可能性がないのである。〝ハッピーなクリスマス〟なんて、私には過ごせない。

「…今年も私は、一人ぼっち。」

 あまりにも小さい私の声は、色めき立つカップルの明るい声にかき消されてしまう。誰かに聞いてほしいわけでもないけれど、どこか寂しい。
 そんなことを思っていた私の45センチ隣に、紺のコートを着た長身のスマートな男が腰をかけた。

「人を、待っているんですか?」

 柔らかく落ち着いた声色に私は顔を上げた。彼は少しだけ微笑んでいる。

「…ええ。」
「僕も、です。隣で待ってもいいですか?」
「え?」
「こんな日に一人で待つのも、なんですし。」

 おかしなことを言う人だ、と思った。大切な人を待つのならば、女となんて待たない方がいいに決まっているのに。
 でも、私だっておかしい。だって、彼の言葉に頷いてしまったのだから。
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