コンプレックス×2
崇は旅行会社で、ツアーの添乗員をしている。
今回、過疎に悩む田舎町が、町おこしの一環として主催するお見合いツアーに、同僚の久治、昇(のぼる)と共に同行する事になった。
参加者は結婚を意識している独身男女各二十名ずつ。
夜バスに乗り込み出発して、車中泊の後、翌日は終日主催する町で、町内観光や農業体験などを通して意中の相手と親交を深めてもらう。
そして午後、町役場で告白タイムの後、最初の集合場所に戻って解散、という内容だ。
主催した町としては、カップルとなった二人が町に移り住んでくれる事を期待している。
一応、町の思惑を説明し、田舎暮らしに興味のある人、という条件で募集をかけてあるが、思惑通りに行くかどうか、崇自身は疑問に感じていた。
普通の観光ツアーと違い、お見合いツアーだけに男性陣は理性のタガが緩んでいる。
車中泊の最中、女の子にちょっかいを出す奴がいてはまずいので、バスの車内、最前列に崇、最後列に久治が座って見張る事になった。
昇は主催者の意向で、撮影機材と共に、バスの後ろから車でついてくる。
何度目かのトイレ休憩に立ち寄ったバスターミナルで、心配していた事件が起きた。
深夜のバスターミナルは売店も閉まっていて、人影も自分たちのツアー客しかいない。
缶コーヒーを買いに行った自動販売機コーナーの死角で、何やらもめているような声を聞き、崇は様子を見に行った。