Music Art Fair

祭里編

 こんにちは。僕の名前は香山雪乃です。将来はピアノでご飯を食べたいと思っています。
 僕の家族は芸術一家です。だからか、皆ちょっと変わっています。今日はその中でも一番生活破綻者である次女の祭里を紹介します。



 祭里姉さんは今、パリに留学しています。桜子姉さんと違ってあんまり帰って来ません。それは、帰って来るのを忘れているから、らしいです。
 でも、僕にとってはその方が良いです。だって、姉さんが帰って来ると大変な事になるんですから。
 今日は、たまたま、姉さんが大学教授に家に帰された冬の日の事をお話します。

 その日、大量の荷物が届きました。絵の具とかキャンパスとか。僕は一発で祭里姉さんの物だ、と分かりました。とっても汗臭かったんです。
 僕が思った通り、姉さんは帰って来ました。タクシーで。するとただいま、も言わずに自分の部屋に引きこもってしまったのです。
 大変でした。本当に。姉さんは引きこもり生活を送っていたのです。
 ご飯もベッドの中で食べてしまうし、色々ベッドの中で済まそうとします。でも、一番大変なのはそんな事ではありませんでした。

「インスピレーションが沸いた!」
 姉さんは怒鳴るようにそう叫んでリビングに降りて来ました。僕はその時飲んでいた紅茶を吹き出してしまいました。
 あちらこちらを走り回って姉さんはパリから送られて来た絵の具やキャンパスを持ち出します。
 そして部屋へ向かおうとする姉さんに僕はしがみ付きました。だって、大変な事になってしまいますから。そして僕は懇願します。
「姉さん、お願いします!アトリエに行って下さい!」
「オレのアトリエはオレの部屋だ。」
 僕は何とか気力を振り絞って姉さんの部屋までしがみ着いて付きましたが、姉さんは僕を放り投げてばたんと部屋の扉を閉めてしまいました。
 いつも片付けるのは僕なのです。なのに姉さんは。
 僕は切なくなってしまいました。姉さんは絵を書くしか出来ません。まるで老人介護をさせられているよう。
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