Music Art Fair
僕の家族を紹介します

桜子編

 こんにちは。僕の名前は香山雪乃です。将来はピアノでご飯を食べたいと思っています。
 僕の家族は芸術一家です。だからか、皆ちょっと変わっています。今日はその中でも一番怖い長女の桜子を紹介します。



 桜子姉さんは今、チェコの大学に通っています。その大学院に入って、歌劇団に入るのが姉さんの夢らしいです。
 そんな姉さんの愛車真っ赤なポルシェです。父さんを強請すったのだと聞いた事があります。
 長期休暇とか、そうでない時も姉さんは帰って来ます。帰って来たら。姉さんは、必ず僕に伴奏を促すんです。
 僕は姉さんの伴奏をするのは嫌いではありません。だって、僕、姉さんの歌が好きですから。とても情熱的で、迫力があって。それでいて繊細で深く。僕には真似出来ない演奏です。
 でも、困った事があります。姉さんはとても怖いんです。そして暴力的です。とても感情的で、アップライトピアノを壊した事もありました。
 いつか僕も殺されてしまうかもしれない。そう思うと胸が締め付けられて。僕の演奏はがたがたになってしまうのです。
 今日も、何の連絡も無しに唐突に帰って来た姉さんは僕に楽譜を突き付けました。何と、オペラ「ルチア」の「狂乱の宴」の楽譜でした。「狂乱の宴」は「ルチア」で最も見所のシーンです。姉さんにいわせると「王女ルチアのストリップショー」らしいのですが。僕にはそんな一言で終わらせられないくらい素晴らしいシーンです。
 だから、僕は姉さんにこの楽譜を突き付けられた時、何がどうなっているのか分かりませんでした。
 何と姉さんは学園祭の時にルチアを上演し、しかも主役のルチアを演奏するそうです。僕は嬉しくなりました。でも。
「さっさと弾け。のろま。」
 姉さんは僕が喜びに浸るのを許してくれませんでした。
 僕は姉さんに首根っこを掴まれてピアノ室に放り込まれました。ピアノ室には中央にグランドピアノと、僕と姉さんと、父さんと母さんの楽譜のスペースが四隅にあります。
「おら。」
 姉さんは僕を椅子に座らせると、コピーした楽譜を乗せました。
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