雪の足跡《Berry's cafe版》

 仕方なく私は携帯をポケットから取り出し、自宅の番号を押した。


「ちょっと何するのよっ!」
「ユキのお母さんに技選の報告」


 八木橋は私の携帯を奪って耳に当てる。母が出たのか、八木橋が口を開いた。


「あ、八木橋です。先日はありがとうこざいました。はい、いえ……」


 母とこないだの旅行の話をしてるらしかった。一緒にレッスンを受けた学生が検定にパスしただの、地酒がどうの、そんな会話をしている。そして今日は県技選で予選を無事通過した、と報告した。はい、ありがとうこざいます、明日も頑張ります、と返事をしている。


「実は先程、県道で事故がありまして、ええ、僕がこっちに戻った後に起きたようで」


 八木橋は通行止めの話をしだした。6台が関係する事故でしばらく開通しそうにない、と説明した。


「夜中に帰すのも危ないので、今晩はお嬢さんをお預かりします」


 私は俯いた。八木橋は淡々と母に報告する。お嬢さんは事故に巻き込まれたかもしれないとちょっとパニックになっていて、はい、事故には巻き込まれてませんので安心してください、落ち着いたら電話させますので、と話して通話を切った。





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