雪の足跡《Berry's cafe版》

「早いのね。小学生でもあるまいし」


 私は先週のトラウマに加え、板を盗まれそうになったこと、八木橋に怪我を負わせたことでスキーをする気にはなれず、酒井さんと話した後はすぐに帰宅した。日も延びはじめた夕方、明るいうちに帰宅した私を母は疑う。女親だからだろうか、先週の外泊といい、三十路目前の私に何かを期待してるのかもしれない。行き遅れるよりはマシだ、と。八木橋も酒井さんもブラウニー美味しかったと言ってたと伝えると母は喜んだ。

 八木橋にメールしようか迷う。でも今回が最後になるかもしれないし、何より怪我が心配だった。着いたから、怪我させてごめんなさい、と八木橋の携帯に送った。


『ヤギも29だしさ、その先のことを考えてたんじゃないの? 雪が苦手な元カノを無理矢理ここに縛り付けたくなかったんだろうね』


 元カノと結婚まで考えてたのに何故別れたのだろう。雪が苦手と言えば母も同じ。


「母さん」


 キッチンで夕飯の支度をしてる母に聞いた。


「母さんは父さんと結婚して幸せだった?」


 母は、何よまた、この子は、熱でも出た?、と茶化す。


「母さん寒いの苦手でしょ? 父さん、母さんのこと無理矢理スキーに連れ出してたの?」
「無理矢理じゃないわよ」

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