雪の足跡《Berry's cafe版》

「母さん、ユキに兄弟を作ってあげられなかった。何かあった時に頼れる人もいない。なら、本当にこの人だと思える人と結婚して欲しい。この人なら何でも相談出来る、信頼出来るって人と」
「でも……」


 私が反論しようとすると母は更に言葉を続ける。


「ユキをあてにして育てて来たんじゃない。それとも母親のために我慢して一生一緒に暮らします、って恩着せがましくここに残るの??」
「……」
「ユキ。自分の子供に幸せを願わない親なんていない」


 父さんのためにも幸せになりなさいよね、母さんが父さんに怒られるから、あっちの世界でね、と茶化す。湿っぽくなっちゃったわね、夕飯食べるでしょ?、と言いながら母は席を立つ。本当に母の言う通りにしていいんだろうか、母を置いていいんだろうか、自問する。もし父がいたらなんて言うだろう……。


「来週、全国大会よね。八方尾根。決勝は土曜日だったかしら」


 母は八木橋からの荷物を横にずらして、夕飯のおかずを並べた。私は洗面所に行き、化粧を落として冷たい水で顔を洗う。素顔の自分は思うよりもさっぱりとした表情をしていて、無意識のうちに決心したのだと思った。




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