雪の足跡《Berry's cafe版》

 午後は1本違うコースで滑る。更に雪質は重くなったけど相変わらず八木橋の滑りは軽やかだった。赤いウェア、軽い滑り、否が応でも目を引く。追い抜いた彼を皆が目で追う。綺麗に揃う足。跳ねすぎないフォーム。きっとふくらはぎの筋肉も腹筋も背筋も使って全身でこう……。いつの間にかシュミレーションしてる自分に気が付いた。


「な、何真似てるんだろ」


 ブンブンと頭を振る。でも浮かぶのは奴の滑る姿で。再び頭を振る。奴の滑りを受け入れるのは父を裏切る気がする。

 午後のレッスン終了時間になり、麓のレストハウスまで戻る。ゼッケンを脱いで八木橋に返す。


「じゃ、明日」
「あ、明日?」


 だって明日は携帯を買い替えに行くんじゃなかった? 休日なんじゃないの?


「だって明日、休みなんでしょ? あ、分かった、私から直接レッスン代を受け取ってマージン無しでぶん取る気でしょ?」
「アホ」
「じゃ何よ」
「番号もアドレス消えたし、相当労力いると思うんだよなあ?」


 八木橋は薄笑いする。


「明日、一日付き合えよ。労働の対価を支払え」
「ええっ?」


 対価?、携帯にアドレスを打ち込むのを手伝えとかじゃなく違うもの? インストラクターの仕事を手伝えとか。それならまだいい。私の頭の中は全く別のことを想像していた。まさか体を売れってコトじゃ……。


「ちょ、ちょっとまさか」
「明日ここに8時半で」
「へ?」


 八木橋はストックで挨拶すると平屋のスクール小屋に消えて行った。ホッとした。ここで集合ってことは体を差し出せってことじゃない。何をさせられるのか不安だけど、口が悪い割に態度も酷い割に根はそんなに悪い人じゃないって気はしていて、また明日も来ようと思った。




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