雪の足跡《Berry's cafe版》


 朝は早めに起床する。待ち合わせはリフト運行開始の8時半。コーヒーを飲みながら今日は何をさせられるのか想像する。スクールの雑用だろうか、ゼッケンの洗濯とかアイロン掛けとか、はたまたコース整備とかスクール小屋の掃除とか。全く予想がつかないだけに良くも悪くも幅広い妄想が広がる。

 支度をする。今日でここに来て3日目。12月30日。8時過ぎにはゲレンデに着いたけど八木橋の姿はなかった。年末らしく朝早いのに人出はあった。赤いウェアを探す。いつもならインストラクターがウジャウジャしてるのにレッスン前だからかポツポツ。既に滑ってるインストラクターもいたけど滑り方が違うからすぐに分かる。八木橋じゃない。

 レストハウスの方から私と色違いのウェアを着たスキー客がいた。今シーズンのニューモデル。何気無しに目で追う。板も私と同じ限定版っぽい。一回り大きいメンズの板。メンズのウェア。男性。その男性はそのまま私の前に来た。私はそこでやっと気付いた。


「今日もよろしく」


 八木橋だった。


「な、な、な……何故」
「今日はオフだから。スクールだと生徒に板を踏み付けられたりするし」


 ニューモデルだし傷だらけにしたくねえし?、と八木橋は満足げに板を見下ろしながら呟く。彼のビンディングの上に刻まれた番号は“001”。私だって予約開始日開始時間に会社からこっそりファックスを送ったのに、それだって“003”。八木橋はクスクスと笑いながら顎でリフトを指す。後ろについて坂を滑り上がる。一緒にペアリフトに乗る。回りのスキー客もスタッフもなんだかニコニコと笑う。リフト乗り場に並ぶときも皆、私と八木橋が一緒に乗るのを見透かしたかのようだった。でも今日はゼッケンも付けてないし八木橋だってインストラクターの赤いウェアじゃないのに……。そこで気付く。ペアルックだからだ。ウェアは勿論、板もブーツもストックまで一緒!


「ちょ、ちょっと何故お揃いなのよっ」
「真似したのアンタだろ?」


 そう言って八木橋はストックでシリアルナンバーを指した。


「メ、メンズの1番でしょ? レディスとは別じゃない」


 自分でも屁理屈を言ってるのは分かってる。
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