雪の足跡《Berry's cafe版》

 八木橋は八方尾根まで他スキーヤーの車に便乗して来たと言い、そのスキーヤーに別便で戻ると携帯で連絡をした。私も母にこれから八木橋を連れていく、と電話をする。


「夕飯の用意、したほうがいいかしら?」


 時計はもう17時。浦和に着くのは22時になる。


「多分途中で済ませると思う」
「じゃあおつまみとお酒、用意しとくわね」


 うん、ありがとう、と返事をした。


「あと、布団も用意するわね。ユキの部屋でいい?」
「えっ! や、何、母さん!」


 馬鹿ね冗談よ、と母は笑って通話を切った。通話画面から待受画面になった携帯を握り締める。心臓がバクバクした。


「どした?、顔が赤いぞ??」
「何でもない……」


 嫁入り前の娘を平然とからかう母親に辟易しながら八木橋を見る。処女じゃないし、八木橋にも抱かれたし、とは思う。

 着替えて駐車場に向かう。八木橋は二人分の板とブーツを抱えて私の前を歩く。広い背中、がっちりした肩、太い腕。いつもの黒いダウンジャケットに包まれているけど意識してしまう、男の人なんだと。


「早く開けろよ、鍵」
「あ、うん」


 何ボーっとしてんだよ、アホ、と笑われて我に帰る。車のキーを出して開錠すると、八木橋は手際良く板を積み込んだ。

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