雪の足跡《Berry's cafe版》

『流産って癖になるって』
『今回のケースは当てはまりません、安心してくだ……』
『母は何度も流産を繰り返したんです! もしかしたら私も』
『遺伝は全くないとは言えませんが、必ず遺伝するとも限りません』
『でもっ』


 私は流産した事実を突き付けられてパニックになっていたのだと思う。冷静に説明をする医師に食ってかかり、看護師に宥められる。自分だって何をしてるか分かっていた。八つ当たりだ、って。

 待合室に戻り、シートに腰掛ける。回りにはお腹を突き出した妊婦が同じく診察や会計を待っている。育児雑誌に目を通したり、マタニティクラスのお知らせを眺めてたり。私には、皆が勝ち誇り笑ってるように見えた。それも被害妄想だって分かってる。

 会計を済ませる。呆然としながら車に乗り込む。後はどうやって帰宅したのかは覚えてはいない。いつも通る交差点は赤信号で停止したか青で止まらず通過したか、家の前を通っただけで吠える犬がいたかどうかも記憶がない。ぐるぐると医師とのやり取りが頭を駆け巡り、気が付くと玄関の前に立っていた。

 中に入る。靴を脱いでダイニングに行く。お茶を飲んでいた母は笑顔で立ち上がり迎えてくれたけど、私の表情で察したようだった。


「ユキ」
「駄目、だって」


 何が?、何が駄目だったの??、と母に聞かれた。覚えてる限りの説明を母に伝える。化学的流産で流産に当たらない、よくある出来事で特に処置もない、次の妊娠には何ら問題はない、と。


「そう……。残念だったわね」


 母も寂しそうにため息をついた。
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