雪の足跡《Berry's cafe版》

 うちに初めて来た時、駅まで送った時にも車の中で慣れた手つきで私にキスをした。

 レストランについて中に入る。店員に案内されて席に着く。メイン料理や前菜を注文した。ミニコース仕立てでサラダやスイーツが食べ放題になっていて、客の9割は女性だった。八木橋の顔を見上げると嬉しそうにケーキ棚を見ている。恥ずかしそうにしてはいなくてホッとした。


「よし、食うか!」


 前菜の前にケーキだ!と立ち上がり、棚に向かう。取り皿にチョコケーキを2種類乗せ、満足げに席に戻る。私はサラダを取り分ける。ただでさえ店内には男性は少ない。やや背の高い八木橋は目立っていた。皆が振り返る。

 モテるかモテないかと問われればモテる部類だと思う。酒井さんだってそう言ってた、女の子から声を掛けて来るって。それで合コンして遊んで、元カノと付き合った。


「どした?」
「あ……ううん」


 無類のチョコケーキ好きの八木橋は早速ケーキに食らい付く。


「……元カノって」
「モトカノ……ああ」
「何処に住んでたの?」
「東京」
「遠距離だったんだ」


 あの頃は板の開発でスポーツ工学スキー専門の教授の所に行ったり制作会社にも用事があったからあんまり遠距離って感じはなかった、と八木橋は言った。
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