雪の足跡《Berry's cafe版》

 八木橋の胸板と自分の胸が密着する。身動きの取れない体勢で八木橋はゆっくりと揺れる。初めて抱かれたときも2回目もそうだった。背中に当たる八木橋の手首がゴツゴツして違和感があったけど、八木橋に守られてる感じがして心は満たされた。俺のもんだ、って言われてる気がして胸がいっぱいになった。でも今夜は違う。

 こうして元カノも抱かれたんだろうか、彼女も八木橋に抱かれて満たされてたんだろうかと天井を見ながら八木橋の動きに合わせていた。彼女と別れて1年と経ってはいない。酒井さんの言う通り、雪の苦手な彼女を思いやって別れたのなら八木橋はまだ彼女を引きずっている。


「ユキ、上」


 羽交い締めされた上半身が放され、八木橋は一度私から離れた。


「どした?」
「ううん、ちょっと恥ずかしい」
「そんな歳でもねえだろ?」


 八木橋はそう言って寝転がると私の腰を掴み誘導する。“そんな歳でもねえだろ”……、彼女は八木橋の前で真っ赤になって抵抗したんだろうか。二十歳くらいの彼女。

 いつもの私ならそれに対抗するように跳ね退ける。あんな小さな菜々子にだって負けたくなくて突っ掛かる。20歳の彼女にだって突っ掛かればいい。28なら28歳の良さがあるって、若さだけが女の武器じゃないって。しおらしく恥ずかしがるばかりが可愛さじゃないって。

 今夜で抱かれるのは3度目、八木橋は私の弱点を見つけてはそこばかりを攻める。

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