雪の足跡《Berry's cafe版》

 翌日、私は午後のシャトルバスで浦和に戻った。


『……分かった』


 あっさりだった。仕事を辞めたくないこと、浦和での生活が便利なことを上げて説明すると八木橋はあっさりと引いた。確かに仕事は正社員になってやり甲斐も増えたし楽しかった。大きなショッピングモールも出来て便利だったけど、八木橋のいるところだって車さえあれば不便なところじゃない。嘘。ああでも言わないと八木橋が諦めないだろうと思った。

 その一方で簡単に別れを受け入れられたことにショックも受けた。やっぱり八木橋は元カノとやり直したいんだろうと思った。自分から別れて欲しいと切り出しておきながらなんて勝手なんだろうと呆れた。


「母さん」
「何、お夕飯?」
「八木橋さんと別れた」


 そんな寝言言って今日はエイプリルフールじゃないのよ、お式はいつにしたの?、と私の言うことを全く取り合う様子がない。


「本当に別れたの!」


 そ、じゃあお見合いするのね、と笑って夕飯の支度を始めた。その母の笑顔は冗談からなのか内心八木橋と破談になってホッとしたからかどっちにも取れる。どっちだっていい、さっさとお見合いしてさっさと結婚してしまおう。条件のいい人だと言っていた、だからきっと子供が出来なくても許してくれる。

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