雪の足跡《Berry's cafe版》
 壁の時計の針が重なり、メロディが流れる。私は一度伸びをして、パソコンの電源を落とした。


「青山さん、お昼どこがいいですか」
「柏田さんは何か食べたいものはありますか?」
「いえ、僕はどこでも構いませんので」


 八木橋ならきっと何が食べたいとか和食とか麺系とか言うのに、と考えてしまう。


「……ファミレスなら何でもありますし」
「はい、青山さんと一緒に食事出来るなら何処でも!」


 薬局の施錠をして彼を私の車に乗せた。初対面の男性の車に乗るのは気が引けたから。エンジンを掛けると普段掛けている音楽が流れて、柏田さんは、いい曲ですね、何て言う歌手ですか、と尋ねてくる。去年紅白にも出た歌手で曲も書いてる、と説明すると最近の流行りは分からなくてとハンカチを出す。


「柏田さんは音楽は……」
「若い頃は聞いてましたけどね、アイドル全盛期でしたし」


 柏田さんはそのアイドル達を歳の順に並べて解説を始める。私はその聞いたことのある名前に頷きながら聞いていた。一回りも上、会話が成り立たないかもしれない。でもそれはそれで喧嘩にもならないし、互いの無い知識を埋めることも出来るとも思った。

 ファミレスに着く。私はドリアを、柏田さんは日替わりランチを注文した。料理が届くまでの間、再びアイドルの話題。聞き役に回ってると柏田さんは気付いたように口を止める。


「僕のことオタクだと思いました?」
「はい」


 私がクスクスと笑うと柏田さんはまた汗を拭く。

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