雪の足跡《Berry's cafe版》
嬉しい訳じゃなかった。急に言われて戸惑ってそう言った。電話口がガサガサとして母親から菜々子に変わった。
「オバサン……」
「何」
「せんせと仲直りして?」
「……」
「せんせ、明日がお誕生日だからお祝いしてあげて?」
「……」
「オバサン聞いてる?」
しゃくりあげながら話す菜々子。私はどうしていいか分からなかった。
「……分かった。そのかわり」
「そのかわり?」
「オバサンって呼ぶのを辞めたらね」
「えっ、オバサンはオバサンでしょ!」
「あのね、菜々子だって赤ちゃんから見たらオバサンなのよ!」
「絶対やだ!!」
「そ。じゃあヤギと仲直りしない」
「……」
しばらく黙った後、菜々子はボソリと言った。
「……あおやまさん」
これでいい?、菜々子のヤギせんせを悲しませたらまたオバサンって呼ぶからねっ!!、と威勢良く吐き捨てると菜々子はガチャンと電話を切った。呆気に取られて携帯を閉じた。
ロビーのカフェに入る。夕刻でチェックインを済ませた数組の宿泊客がくつろいでいた。何気なく窓側に座り、コーヒーを注文する。