雪の足跡《Berry's cafe版》

 お昼になり、私は一度部屋に戻った。食事の用意をする。冷蔵庫には昨夜炊いた白飯、豚ロース肉、カットしたオレンジ、平目の切り身、レタス、イエローのミニトマト、卵……まだまだある。明日の朝にはチェックアウトしなくちゃいけないのに食べ切れない量。

 ため息をつくと、電子音が聞こえた。メールの着信音。二つに折れた携帯を壁に掛けたウェアのポケットから取り出して画面を見ると知らないアドレス。


「え……?」


 でも件名には名前が印されていた。


『件名:八木橋岳志』


 八木橋なんて苗字、アイツしかいない。携帯を操作する指が震える。心拍数が上がる。何故、何故私のアドレスを……?


『じゃあいいよね、青山ユキさん?』
『えっと、住所はさいたま市浦和区……』


 スクール申込書の写し。


『電話番号は……あ、アドレスもご丁寧に。年齢は27歳』


“当スクールの最新情報をメールでお受け取りになりたい方は”の欄に携帯アドレスを書いたんだった。で、でも何の用件で送って来たの……?


 震える指でボタンを押す。


「は?」


 携帯の画面にはたった一言印されていた。



『本文:嘘ついて悪かった』


 たった一行、たった一言。ぶっきらぼうにも程がある。謝るならちゃんと文章にするべきだし、大体メールで済まそうなんて非常識だし。でも八木橋らしいと思った。ソッポを向いてボソリと言う八木橋の姿が目に浮かぶ。

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