雪の足跡《Berry's cafe版》


「これ辺り、どうだ?」


 八木橋がちゃぶ台に広げたコンパクトカーのパンフを指差して言った。


「うん。大きさも手頃だし」


 結婚してまだ2週間。ようやく宿舎での生活も慣れ始めたところ。八木橋は月末にオープンするスキー場に合わせてスキースクールの準備を進めていた。とは言っても先駆けてオープンした余所のスキー場で技術選の研修会に参加することも増えて仕事は欠勤が続いてる。それでも支給されたなけなしのボーナスで私の車を買うことになった。


「色は」
「ヤギの……た、岳志の好きな色でいい」
「ユキが乗るんだし、遠慮すんなよ。白か?」


 今まで浦和で乗っていたコンパクトカーは処分した。2駆だと坂の多い山では雪が降ればスリップしてしまう、だから4駆に買い替えた方がいいだろうって。浦和とは違って片田舎、車の有無は死活問題と言ってもいい。歩いて行ける距離にはスーパーも病院もないし、この坂道で自転車は厳しい。ましてや雪が積もれば歩くにも歩けない。

 八木橋は、明日見に行くか、と言ってパンフを閉じた。そしてギロリと私を睨んだ。


「え、な、何っ?」
「今ヤギって言ったろ??」


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