雪の足跡《Berry's cafe版》
「そんなんだから彼女にフラれるのよっ。もっと大切にしたら?」
「お前に言われなくても大切にしてたぜ?」
「じゃあ、彼女が悪いって言うの? 冬が終わって板を脱いだアホ男には興味がないってバッサリ切った訳??」
「彼女のこと悪く言うなよ、アホ」
「ア……」


 自分でも分かってる。“彼女を大切にして”っていうのは私を大切にして欲しいという願いを込めてるのも。そして私は八木橋の彼女じゃなくて一晩遊んだだけのオモチャだっていうことも分かってる。でも素直に好きって言えなくてフラれるのが怖くて、目の前にいるのにしがみつけなくて、悪態を付く。ガタガタと体が震えた。


「ヤギ、携帯」
「はあ?」
「いいから貸して」


 八木橋は渋々、ポケットから白い携帯を私に差し出した。データフォルダを開き、画面を数面送ると可愛い女の子の写真が出てきた。赤いウェアの隣に寄り添う彼女。多分リフトに乗っている時の画像で、背景にはキラキラ輝く湖が見えた。今どきのふんわりカールの巻き髪、ピンクのネイル。八木橋の携帯で彼女が撮ったような感じだった。私より、多分、ずっと若い。二十歳位……。


「……代金は払ったよね、私」


 八木橋は、代金?、ああ、買い替えのか?、と尋ねる。


「……労働の対価も支払ったよね」
「おい、まさか……?!」


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