雪の足跡《Berry's cafe版》

「え、ええっ??」


 私は声を上げた。


「青山さん、お帰り!」


 ホテルの夕食会場で食事を済ませた後、一人で露天風呂に行った。母や叔母達は私がスキーをしていた夕方に先に風呂に入っていたので、私だけ入りに行った。そして部屋に戻ってくると、酒井さんがその畳の上で胡座をかいて酒を飲んでいたのだった。叔母達は、青山さんって姉さんも義兄さんも青山さんだから下の名前で呼ばないと駄目よ、と酒井さんに言う。


「じゃあユキちゃん!」
「そうじゃなくて……」


 事情を聞くと、どうやらレッスンを受けた叔母達がレッスン中に酒井さんを逆ナンしたらしかった。ホテル内のミニコンビニで買い込んだビールで私も乾杯させられる。若い子の合コンと違い、叔母達はズケズケと聞きにくい質問もバンバンしている。年齢、住まい、家族構成、彼女の有無、好きな女性のタイプ……。自分があたかも独身で結婚相手を物色してるかのようだった。酒井さんはそんな年上を相手に酌をしながら答える。25歳で実家住まいで嫁に行った姉がいて、高校卒業と同時にこのホテルに就職し、たくさんの出会いがあるこの職種に感謝してます、と喋る。


「年下の男の子だけど、ユキちゃん、酒井さんはどう?」


 あのその、と言葉を濁してるとドアをノックする音が聞こえた。一番近い母は立ち上がるとドアに向かう。八木橋さんも呼んだのよ、お世話になったのに酒井さんだけご馳走するのもね、と言いながらドアを開けた。


「こんばんは、お邪魔します」


 八木橋は低姿勢で入って来た。手には一升瓶を抱えている。地酒です、冷やして飲むと旨いので、と窓に向かい窓を開けてベランダに積もる雪の中に一升瓶を突っ込んだ。叔母達は八木橋を座らせ、まずはビールでと酌をする。そして叔父と母がレッスンの礼を言うと叔母達が容赦なく質問を連射した。

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