鉄の薔薇姫
ここで男を見せることができれば、二人の上官にそれぞれ別な意味で好印象だろう。

レンカは剣を握り直し、つま先にじりと力を入れた。

斬り結ぶこと数回。

シアの剣が横薙ぎに頭上をかすめる。
大振りはチャンスだ。
レンカは身をかがめ、懐に入り込んだ……はずだった。

しかし、そこにあったシアの身体は、たった一歩の踏み込みでレンカの背面に異動していた。

余裕たっぷりにシアがレンカの後頭部を剣の柄で小突いた。


「動きが直線的過ぎる。腰と肩の向きで攻撃の角度が丸わかりだ。だが、反応はまあまあだ」


レンカは唇を噛み締め、シアに一礼し下がった。

悔しかったし、情けなかった。

どれほどプライベートを共有していても、大事な場面で好きな女に負けているのでは、彼女の特別な存在になどなれっこない。


「この調子じゃあな。そうだ、リルアム!おまえ、参加しろ!」


シアが仮にも上官に向かい怒鳴る。

勘弁してくれと肩をすくめていたリルアムだが、しつこく食い下がるシアに根負けしたようで、馬を降りて近づいてきた。
リルアムが手を差し出したので、レンカは自らの模造刀をリルアムに渡した。

< 28 / 60 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop