華と太陽

我慢なんかする必要ない

「大丈夫か?」
電車が再び動き出したころ、上から声が降ってきた。はっとした凛は今だ男の人にくっついてい自分に気づき、慌てて距離をとった。顔を見る暇もなく、
「あ、あの…すみません!」
全力で頭を下げて謝った。頭を上げても、緊張と恥ずかしさで顔は見れないまま。
「いや…。あの男、前も君に嫌がらせしてたよな。」
「えっ⁈」
男の人の言葉に、凛ははっと顔を上げた。男の人は、恐らく大学生で、凛よりは年上に見えた。こんなときだが、無愛想で整った顔立ちに思わず顔が火照ってしまうのを感じた。

それは別として、男の人は凛が最近ずっと一人の男から痴漢されていることを知っているようであった。
「俺よくこの時間に乗ってるから。前に一度近くに立ってて、そのときは君が上手く逃げてたけどな。」
(気づいて…くれてたんだ…。)
「痴漢は女性が絶対の被害者なんだから、我慢なんかしないで助けを求めていいんだ。傷が残る前にな。」
たった今知り合ったばかりの男の人がすらすらと話す言葉に、今まで抱えていた不安や緊張が一気に崩れていく。

涙が出そうになるのをぐっとこらえ、
「助けて頂いて、本当にありがとうございました。」
ありったけの思いを込めて再び頭を下げた。

凛は次の駅で降りる。ふと、目の前の男の人とはこれでお別れだと思うと、不安が湧き上がってきた。
しかし、男の人は思いがけない言葉を掛けてきた。

「大学だろ?このまま一緒に行くよ。」
「えっ?」
(つまり、送ってくれるってこと…?)
「君、梅里大学の学生だろ?俺もそこに通ってるから。」
「えっ、なんでご存知なんですか?」
「一緒の電車に乗ってれば行き先は同じだからな。あっ、別に付けたわけじゃないからな。俺は梅里大学の経済学部3年。君は?」
「家政学部1年です。」
凛は男の人のペースにどんどん巻き込まれていた。いつのまにか、大学に一緒に行くことになり、いつのまにか先輩後輩の関係になっている。

「じゃぁ大学まで一緒に行こう。」
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