夏月一会

「ごめん……麗海さん」

嗚咽が治まってきた頃、凪が小さく呟いた。
私を抱き締めている力も、緩んでいく。


「大丈夫だよ……凪」

私は首を横に振って言った。


「麗海さんに会えて……本当に良かった。僕は、麗海さんに出会えて、本当に幸せだよ」

凪はそう言って、再び私の身体を強く抱き締めた。


「だから……麗海さんも、幸せになって……僕よりも、世界中の誰よりも……約束だよ」


凪のその言葉に、私は涙を堪えるのに必死になってしまった。


「うん…約束……」

声が震えないように注意しながら、私は頷いた。





窓の外には、夜明けの気配がしていた。


この夜が明けたら、私はもう、凪のこの腕の中にいることはないだろう。






.
< 105 / 121 >

この作品をシェア

pagetop