夏月一会



「……失礼します」

声がして、私ははっと我に返った。

顔を上げると、そこには柳さんが立っていた。


「今日はもう遅くなりましたので、車でお送りします」


「は…はい」

私は慌てて下を向いて手で涙を拭った。


「あ……でも、車を海のところに置いてきてしまったんですけど……」

そう言った自分の声が、ひどく落ち着いていたのに驚いた。


車のことなんて、その時口にして初めて思い出したことなのに……


でも、あそこには、凪のスケッチブックもある。

それだけは、守りたかった。


「車は、後で取りに行かせますので」

柳さんは落ち着いた声で言った。


「はい…」

私はただ頷くだけだった。



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