婚カチュ。


わたしは惚れにくい人間なのだ。
だからこそ、いったん好きになってしまうとしつこいくらいに想いは消えない。
 
わたしが広瀬さんを好きな限り、広瀬さんがわたしのアドバイザーでいる限り、わたしは戸田さんに負い目を持ち続けなければならない。

なにも言葉にできないまま、わたしはきれいな顔を睨みつけた。
 

ふいに彼の表情が固まった。
なにかを発見したように、虹彩のなかで瞳孔が開く。


「もしかして、ほかに好きなひとができたんですか」
 

広瀬さんの声がダイレクトにわたしの心臓をつかんだ。切れ長の目に見つめられ、呼吸が止まる。


「誰です?」
 

焦ったような口調に目を逸らす。


「広瀬さんに、言う必要がありますか」
 

声を尖らせた瞬間、


「当然でしょう」
 

厳しい口調で彼は切り返した。


「僕には知る権利がある。あなたの幸せな結婚のためにこれまで尽力してきたんです」
 

どこか必死な形相に、わたしは唇を噛みしめた。


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