聖なる夜の願いごと
あの自由奔放、唯我独尊の俺様国王をコントロールできる者など王妃しかいない。
結婚して数か月で、周りにそう言わしめるほどシルバにとってエレナの存在は日々大きくなっていた。
それこそ日々上がってきた書類をその日のうちに捌いてさっさと後宮に帰ってしまうほどに。
そうなると大変なのはウィルの方で、大量の書類をシルバに上げるために素早く処理を行うことが要求される。
そのため、自室に持ち帰り、済ませてしまうのだ。
今日もまだシルバは執務室にこもっているはずなので、早く部屋に荷物を置いて戻らねば。
ウィルがそう思って歩くスピードを速めた時だった。
前から見知った顔が歩いてくると思ったら、その男もウィルに気づき手を上げる。
「おう!ウィル!」
白の軍服を嫌みなく着こなした男が軽快な口調で挨拶を投げかける。
王城にいるはずのない男を視界にいれたウィルの目は冷たい。
「久しぶりだな」
「デューク…貴方まさかまたサボりではないでしょうね」
「人聞きの悪いことを言うな。それじゃまるで俺がサボってばっかに聞こえるだろ」
「あながち外れてはいないと思いますが」
ウィルが呆れ顔をするのも無理ない。
デュークは国王直属の騎士団の副団長であり、イースト地区を統轄している地位にありながらさぼり癖がある。
シルバのようにさぼり癖があるとはさすが従兄弟といったところか。