聖なる夜の願いごと
「ウィルもお前も相変わらず冷たいな。エレナは笑顔で迎えてくれるのに」
役者も顔負けの演技で心を痛めたふりをしながら横目でシルバの様子をうかがう。
すると案の定シルバは“エレナ”の言葉にピクリと反応して鋭い視線でデュークを見据えた。
「お前が出てけというなら出ていくが、俺明日まで暇なんだよなー。エレナを誘って城下町にでも行ってこようかな」
「駄目だ」
「なんでだよ」
「お前なんかにエレナを任せられるか。もう俺の手の届かないところでエレナを奪われるのは懲り懲りなんでな」
つまりはエレナを常に自分のそばに置いておきたいということか。
こんな恥ずかしい台詞をよく真面目な顔で言えたものだ。
デュークはからかってやりたいのが半分、少し分かるような気持ち半分だった。
エレナを二度も奪われ、一度は失ってしまう恐怖を身に覚えたシルバは誰よりもエレナに対して過保護になった。
城外に出る時も遠出の時以外は必ずエレナを連れて行き、エレナが一人で出かける時は護衛をつけ厳重な厳戒態勢をとる。
それこそエレナが窮屈な想いをしないだろうか、と思うほどに。
しかし、デュークはエレナを自分に任せたくないのは他に理由があるのではないかと思っている。
なんでも、城下町に行くとエレナが喜ぶらしく、その笑顔を他の誰かに見せるのは我慢ならないらしい。
未だにエレナを城下町に連れて行き、エレナの好感を得たことを根に持っているのだろうか。