【企画】魔法が醒めるとき



「僕は嫌ですよ」

「でもっ……」

「あなたと結婚したいんです。それだけですから」

「東吾さん……」


そのまま俯いたあたしがふと顔をあげると、周りの景色に唖然としてしまった。


「ちょっ、東吾さん!」

「はい、着きましたよ」


車を止めて、やっとあたしを見た顔はとても穏やかで優しい。


目を見開くあたしに


「僕はここに居ます。だから……戻って来て下さいね、必ず」


にっこり笑ったんだ。


この人は……どこまで優しくなれるのだろう。

こんな人、他に知らない。



あたしも、光も言えなかった“だから……”の先を言えてしまった、この人を。


「ありがとうっ」


そう涙を溜めた瞳で言うと、あたしは勢いよく車を飛び出した。



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