揺れて恋は美しく
オヤジン寮へ入って行くのは、大きなバックを抱えた、これまたかなり大柄な体型の人物。

「ただいまー!」

その喉を震わす低い声は、疑う余地なく男性である。

「レイコちゃん?」

ジャージに着替えていたママが部屋から出て来る。

「ただいま。ママ」

「やっぱり! レイコちゃん!」

ママがレイコに抱き付く。

「なに? 気持ちわるい」

ちょっと不機嫌になるママ。

「お互い様でしょ!」

ママがそう言うと、二人は同時に大笑いした。

「ギャハハハハ!」

そして二人は、ドアが開けっ放しの広間へと向かう。そこは、部屋の中心に椅子を六脚揃えた木製のテーブルに、奥にはキッチン、反対側にはテレビにソファーと、この寮での憩いの場である事が伺える。
二人はソファーにではなく、テーブルの方で向かい合って座った。

「お父さんどうだった?」

「大丈夫。ちょっと腰を強く打っただけみたいだから」

「あら、そう? よかったわ、大した事なくて」

「うん。ごめんね、三日も店空けちゃって」

「いいのいいの。レイコちゃんもたまにはゆっくりしないと。いつも、ホステス兼ボディーガードとして頑張ってくれてるんだから」

「そう言ってもらえると助かるわ」

「ほんと?」

「ほんとよー」

「アハハ」

「でも、私がいない間大丈夫だった?」

「大丈夫じゃないわよー 。レイコちゃんが三日も休んだりするからー」

「ママ…。さっきと言ってる事が…」

「あらやだ。気のせいよ、気・の・せ・い」

多分、おそらくだが、流れてきに苦笑いをしているレイコ。正直、怒っているのか判断がつかない顔だ。

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