ミッドナイトインバースデイ


 足早に、階段をのぼる。
 雷の光が時折、屋敷の中を一層明るく照らし出す。ゆっくりゆっくり足を運んだ。立ち入らないでと念を押された最奥の部屋。金の細工が施された扉には鍵がかかっておらず、それどころかわずかに隙間が空いていた。

 乱れた息を整えながら、その隙間から奥を覗く。
 雷光が薄暗い室内を一瞬、一瞬、まるでカメラのストロボのように白く照らす。そこには、アンティークソファに腰掛けるシノブと、彼に向き合うように座るハルがいた。

「……っ、」

 息を呑む。
 柔らかい仕草でシノブがハルの頬を撫で、ゆっくりとその手は首筋を落ちシャツのボタンを外した。白磁の肌を前にシノブは美しく微笑んだ。それは、今まで見たどの表情よりも一等美しい。決して紫織や他人には向けられることのない特別なものなのだと悟る。

 ハルの艶やかな黒髪を二度三度とくと、自然な動作でその首筋に顔を寄せた。鋭い犬歯が、静かに首筋へと埋め込まれていく。なんて、恐ろしく、美しい、まるで厳かな儀式のようだ。苦悶の表情を浮かべるハルの身体をぎゅうと抱きしめながら、シノブは彼の血を音もなく啜る。

 目が離せなかった。

 食い入るように見つめていれば、視線を感じ取ったのか、ハルが熱に潤んだ瞳でしっかりと紫織をとらえた。ぎくりと身体を強ばらせる。秘密を見てしまった紫織を殺すだろうか。けれど、ハルは少し困ったように微笑んだだけで、声のひとつも上げなかった。

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