ミッドナイトインバースデイ

 そんな時、不意に脳裏に浮かんだのは、柔らかく微笑む春都の顔だった。ただの夢か、それとも現実か、最早そんなのは些細なことに思えた。携帯電話の着信。動き出した紫織の時間。戸惑う紫織の背中を押したのは、彼だった。

『出なくていいんですか?紫織の特別な人なんでしょう』

 自分が意地っ張りな性格をしているのは自覚している。けれど、彼に言われれば自然と素直に頷いてしまうのは不思議だ。おそらく、シノブもそうなんだろう。彼も大概面倒臭そうな性格をしているけれど、きっと春都には逆らえない。

「寂しかった、ずっと」

 口から零れ落ちた感情に、紫織自身が驚いた。
 色々な思いが身体中を犇いていたはずなのに、一番に飛び出してきた言葉。その瞬間、ぎゅうと長い腕の中に閉じ込められた。彰の香水の匂いが鼻を擽る。

「やっと、取り戻せた」
「油断したら、また逃げてやるわ」
「……そんなことしない。ずっと紫織が恋しかった」


 彰の身体は、ふわりと温かかった。
 ひさしぶりに感じる彼の身体を、ゆっくりと掌でなぞる。


「ほら、帰ろ」

 
 差し出された手を、戸惑いながら握れば、離すまいと握り返された。
 視界が涙で滲んだけれど、悔しいから泣いてなんてやらない。口を噤んだままの紫織を振り返って、誕生日ケーキ買わなきゃね、そう微笑んだ彰に紫織は小さく頷いた。








END

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