ミッドナイトインバースデイ
Full Moon




 ◎



 ひゅう、肌を撫でる冷たい風に身震いして眼を覚ます。
 いけない、眠ってしまったのだろうか。慌てて立ち上がった紫織は、慌ててバルコニーから室内へ戻る。先ほどまで、音楽と話し声に満たされていた筈なのに、なぜだかシンと静まりかえっている。

「え、…みんな、どこ?」

 紫織が眠っている間に、皆既に帰ってしまったというのだろうか。いくらなんでも、そんなーー。サプライズにしたって性質が悪い。一階のホールから繋がる各部屋には、錠がかけられており開く気配もなかった。

「美緒ー、紗奈ー……」

 薄暗い廊下をかつん、かつん、と紫織のヒールの音だけが響く。がらんとした館内は話し声どころか、人がいる気配すらない。ひやりと背筋が冷えた。ばくばくと心臓が鳴る。

「ちょっと、ねえ!悪戯はやめてよ!!」

 我慢も限界で、声を上げる。けれど、響くだけで、物音一つしない。
 急に恐ろしくなって、慌てて鞄の中を漁る。かつんと爪にあたったスマートフォンを取り出して履歴から紗奈の番号に欠ける。ツーツーという無機質な音だけが響き、繋がる気配もない。画面を見れば、圏外だった。

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