極上の他人

その日、新しい仕事への興奮を抑えられないまま家に帰った。

展示場の仕様についての打ち合わせは、社内でもその成績で有名な営業マンや設計担当を交えて淡々と進められた。

淡々とはいっても、その内容は濃密で、私をはじめ、新入社員研修で一緒だったメンバーは皆圧倒され、何も言えずにいた。

先輩たちが進めていく様子を見ながら、展示場って、こうして形となるんだと、ただただ聞き入っていた。

研修の一環として現実味のない無責任な状況の中で仕様決めをしていた時間は、なんて中途半端なものだったんだろうかと恥ずかしさも感じ、先輩たちの凄さを思い知らされた。

展示場に建設予定の物件は、二世帯住宅シリーズの新商品で、これまでの商品よりも坪単価を安く抑えている

二世帯といっても、年月を経ていくにつれて家族構成も変わり、水回りや間取りに不便が出てくるけれど、その都度その状況に対応できるよう幾つかの工夫が施されている。

そんな商品が展示場に建設されることとなり、クロスや床材など、膨大な種類の仕様を決めていくのが私たちの今回の仕事だ。

「展示場に建てる商品は会社の顔だから、いい意味でプライドを持って取り組んでくれよ」

打ち合わせのあと、先輩が私たち同期に言った言葉は、その笑顔と優しい口調とは反対に、私の心に重く響いた。

入社して初めてとでもいうべき実践。

まずはお客様の家を設計して、仕事と言うものに直接触れてみたいと思いながら仕事を覚えてきたけれど、いざこうしてそれにつながる大きな仕事を任されて、私は興奮していた。

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