極上の他人



輝さんの車がとまったのは、周囲を竹塀に囲まれた一軒家だった。

輝さんに促されるまま車からおりて、趣のある和風の家屋を見上げると、誰もいないのか家から小さな光すら漏れていない。

夜の闇にぼんやりと浮かび上がっている大きな家から、ほんの少しの寂しさが感じられる。

ここは世間でいう高級住宅街で、閑静な街並みに建つ家はどれも大きく、敷地も広い。

坂道が多いのは高級住宅街の典型かなと思いながら周囲を見回すと、街灯に照らされ浮かび上がる、私とは全く関係のないような世界。

「あの、ここって……」

私の横に並んで立った輝さんにそう聞くと、輝さんは私の肩をそっと抱き寄せた。

その仕草があまりにも自然で、逆らう事もせず、私からも体を輝さんに寄せた。

照れるけれど、闇のほの暗さに不安を感じている私は、輝さんから与えられる体温にほっとして離れられない。

見慣れぬ街の夜は、それだけで寂しさを感じる。

「あの、輝さん、ここって……」

そっと見上げ、輝さんに問いかけると、一瞬強張ったような体。

緊張しているのか私の体を抱き寄せる力が強くなったかと思うと、輝さんの低い声が耳元に響いた。


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