極上の他人



私を抱きしめる力は一層強くなり、輝さんの体が強張ったと気づく。

私が声が聞こえた方に目を向けると、耳元にあった輝さんの口元から「大丈夫だから」と低い声が落とされた。

「輝さん?」

何が大丈夫なのかわからないまま、それでも視線は右手にある坂道から聞こえてきた声を探すように動く。

坂の下から近づいてくる人影は、ほの暗い道を照らす街灯の光の中から少しずつその姿を露わに見せていく。

そして、その人影は一つではなく、三つだと気付いた。

「輝先生……こんばんは。遅くなってすみません」

私たちをうかがうような声が聞こえたかと思うと、その人影が足早に私と輝さんに近づいてきた。

「え?真奈香ちゃん?」

はっきり見えたその姿は、真奈香ちゃんだった。

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