極上の他人



そよぐ風の温かさに、そろそろ桜の開花が近いと条件反射のように感じる。

肌寒い冬から、どことなく生ぬるい春風を感じるこの時期を迎えると、どこからか桜の木の匂いが漂ってくるような気がする。

それは自分の錯覚だとわかっていても、体に受ける春の空気の軽やかさや優しさから連想するのは、幸せな時を思い出させてくれる桜の木の匂い。

ほんのり甘く、そして心を落ち着かせてくれる春の空気は、私を支えてくれる守り手のようだ。

幼いころ何度も歩いた坂道を登りながら周囲を見回すと、変わらない風景に自然と口元も緩む。

小学校の帰りに友達と寄り道をした公園は今でも子供たちの笑い声で溢れている。

緑豊かな園内で私が大好きだったブランコが揺れているのが見えて、思わず駆け寄りたくなる。

けれど、今も変わらず子供たちが順番を待っている列に並ぶ勇気はなくて、残念な気持ちを抱えながら通り過ぎた。

友達とどこまで高くブランコをこげるか競争したり、滑り台を必死で速く滑り降りたり。

自分の幼いころと同じように遊んでいる子供たちの様子もなぜか嬉しくて、何度も振り返る。

自分が一番幸せだった頃をかみしめるような気持ちで。


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