旦那様は冷徹社長!?~政略結婚は恋の始まり~
「……っ……あ゙ああぁぁ!」

 両手を胸に当てたまま声を上げ泣き崩れた。

「うぅっ……あぁ……」

 力一杯右手を握りしめて彼の温もりを探す。

 もうそこには何もないのに……。

 きっと顔は涙でぐちゃぐちゃになっているだろう。

 綺麗になんて泣けない――。

 こんなに辛いものなんて……こんなに苦しいなんて……こんなに……こんなに――。

「うっ……ふっ……」

 もう二度と彼に触れる事はない――。

 彼が私を抱きしめた温もりも……私を見つめる綺麗な瞳も……私の名前を低くて優しい声で呼ぶことも――。

 全て思い出として私の胸の中で輝いていくだけ……。

 ただそれだけなの――。

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