幸せになるために
「まさかこんなに、心囚われちゃうなんてな…」


布団に横向きで横たわり、隣で眠る聖くんを見つめつつ呟く。

初日は『何かの拍子にオレから触れるようになって、踏んづけたりしたらどうしよう』と、ビクビクしながら縮こまって寝ていたりしたんだけれど、朝起きた時、やっぱり相変わらず手が素通りしてしまったし、また、二人ともすこぶる寝相が良く、お互いのテリトリーを著しく侵略したりはしていなかったので、今ではすっかりリラックスしきって眠っている。

そして、自然と意識が夢の中へと移行するまで、こうして聖くんの寝顔を眺めるのが寝る前の日課になっていた。


「ふふ…。ホント可愛い」


赤の他人の、まだ2週間しか接していないオレでさえ、こんなに愛しく感じるというのに。

どうしてこの子の母親は……。

そこで、今度は別の感情が激しく心を揺さぶり、この上なく気分が悪くなって来た。

吾妻さんの部屋で、目眩を起こした時と同様に。

……余計な事を考えてしまった。

今はとにかく、聖くんと過ごせる時間を大切にしよう。

この無垢で清らかな魂と、ほんの一時でも触れ合える事ができた、その奇跡の記憶を、しっかりと胸に刻めるように。


*****


聖くん、今日は起きてるかな。

1日の勤務を終え、家路を辿りながら考える。

3日前、オレが仕事から帰ったら、布団の上ででんぐり返しして遊んでたんだよね。

オレも思わず童心に帰って一緒にゴロンゴロンしてしまったけれど、すぐに尋常じゃなく目が回り、息切れがして来て、そしてお腹も減りまくりだったので「夕飯食べて来るね」とよたよたしながらキッチンへと向かった。

すると聖くんも後を付いてきて、「あそこで座って待ってる」と言いながらリビングのソファーを指差したので「じゃあ、テレビ点けて良いよ」と答えた。

聖くんは笑顔でこっくりと頷くと、まずはテーブルまで歩を進め、リモコンでテレビの電源を入れて適当に番組を選択したあと、ソファーによじ登り、画面に集中し出した。

一応、テレビはオレがアパートにいる時に、最長2時間まで見て良いという決まりにしてある。

ケチくさいけど、留守中際限なく見られてしまったら電気代がちょっと恐ろしいし、それより何より『けじめ』というものをきちんと学んで欲しかったから。
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