幸せになるために
エピローグ
「あっちぃ~…」


オレは手にしたタオルハンカチで顔や首筋に滲んだ汗をせっせと拭き取りつつ、職場から駅に向かって徒歩2分ほどの距離にあるファミレスへと足早に歩を進めていた。

ジメジメと鬱陶しい梅雨が先週ようやく明けたかと思いきや、その日から連日、うだるような暑さが続いていて、押し寄せる試練に体が悲鳴を上げている。


「あ、たすく!こっちこっち!」


ほどなくして目的地にたどり着き、二つのドアを開閉して店内に入り、適度に冷やされている空気にホッと一息吐いていると、窓際の一番奥の席に座っていた兄ちゃんが手を振りつつ声を張り上げた。

テーブル席に着いていたお客さんはもちろん、順番待ちの為、レジ前のスペースに設置されている長椅子に腰かけていた7人の男女も、一斉にオレに注目する。

ちょっと、兄ちゃん…。

新規客の対応をするべく、「いらっしゃいませ」と言いながら近付いて来ていたウエイトレスさんは、兄ちゃんのその動きと苦笑いを浮かべているオレの顔を交互に見て合点がいったらしく、笑顔で会釈をすると、そのままレジの内側を通って厨房の中へと消えた。


「ごめんな?忙しいとこ」


オレが対面の席に着くやいなや、兄ちゃんは申し訳なさそうに謝罪して来た。


「いや、それは別に良いんだけど…」


すると先ほどのウエイトレスさんが、水の入ったグラスとおしぼりをトレイに乗せてテーブルに近付き、オレの席の前に置いたので、なんとなく会話を中断してしまった。

当然の事ながら、先に到着していた兄ちゃんの分の水はすでに提供されている。

来店した際に、後からもう一人来るという事は伝えているハズだけど、だからといってお冷やを前もって出しておいたりはしないのだろう。

時間が経つに従ってぬるくなってしまうし、コップが汗をかきまくって見映えもすこぶる悪くなってしまうし。


「言われた通り、ドリンクバーとオムライスセット、頼んどいたから」

「あ、うん。ありがとう」


本来ならこのタイミングで注文する所だけれど、時間短縮の為に、兄ちゃんに前もってオーダーしておいてくれるようお願いしてあったのだ。

その旨了解しているらしいウエイトレスさんは、すぐにその場を離れた。
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